1. はじめに
古くよりアニメ界では八重歯が魅力的な要素，つまりキャラクター属性の一つとして捉えられている。歯並びが悪く見えるという理由から矯正を行う人も一定数存在するなど，現実世界ではマイナスポイントとして捉えられることもある八重歯を，デフォルメしたことにより基本的に歯を描かれることがなくなったアニメキャラの口内のアクセントとして用いることで，チャームポイントに昇華させたことはアニメ界における一つの革命といえる。
しかし八重歯の持つインスタント性，白くて小さな三角形を口内に描き込むだけで容易にキャラに属性を付加することができるというパワーの強さは，八重歯キャラの乱立をアニメ界に引き起こした。近年では「八重歯キャラが存在しないアニメを数えるほうが早い」と言われるほどに八重歯キャラは飽和しており，アニメによっては複数の八重歯キャラが登場するなど，八重歯だけではキャラ立ちのできない，八重歯の没個性化という一種の逆転現象が発生している。インターネット上では八重歯カチカチバトル¹⁾と呼ばれる八重歯キャラの尊厳を賭けた戦いが日々繰り広げられるなど，現代において八重歯キャラにとってアイデンティティを確立することは非常に困難であるといえる。
本研究は日々目まぐるしく変容していくインターネットの中で不変のものであるマウスポインタに注目し，八重歯のマウスポインタへの転用について検討を行うことで，新規性に乏しい両者の新たな可能性を探ることを目的とする。
2. 概説
2.1 八重歯キャラの増加について
著者の報告1)にもある通り，近年八重歯キャラは増加の一途を辿っており，八重歯カチカチバトルが繰り広げられるなど，八重歯キャラのアイデンティティの確立は以前に比べて難しくなっている。図-1は八重歯カチカチバトルの各出場者が出演していた作品の放送時期を示したグラフである。
図-1: 八重歯カチカチバトル出場者の出演作品の放送時期
この図から，八重歯を持つキャラクターは2010年代以降増加傾向にあることがわかる。特に表-1にあるように，2019年の作品からは「まちカドまぞく」の吉田優子を始めとする8名の出場者を輩出するなど，ここ数年で更に八重歯を持つキャラは増加していることがわかる。
表-1: 八重歯カチカチバトル出場者一覧(2019)
| キャラ | 作品 |
| 星野ひなた | 私に天使が舞い降りた! |
| 先輩 | 手品先輩 |
| マオ | えんどろ～! |
| 岬珊瑚 | Re:ステージ!ドリームデイズ♪ |
| 仙孤 | 世話やきキツネの仙孤さん |
| 吉田優子 | まちカドまぞく |
| 紗倉ひびき | ダンベル何キロ持てる？ |
| 月坂紗由 | Re:ステージ!ドリームデイズ♪ |
また，2020年度のアニメも既に「プリンセスコネクト! Re:Dive」のキャルや，「放課後ていぼう日誌」の帆高夏海など，非常に魅力的な八重歯キャラを輩出していることから，今後も八重歯キャラは増加の一途を辿っていくと推測される。このことから，近年の八重歯キャラのアイデンティティが確立していないことは，今現在のアニメキャラだけではなく，この熾烈な争いが存在することを知らずに新規でアニメ業界に飛び込んでくるキャラにも関わってくる問題であるといえる。
2.2 実験概要
実験に使用する八重歯キャラは既往の研究2)を考慮し，月坂紗由とした。また，マウスポインタとして使用することを考慮し，八重歯が大きく見える画像を用いた。今回実験に使用する画像を図-2に示す。
図-2: 月坂紗由の画像
本実験では図から八重歯のみを切り出し，マウスポインタとして普段使用するパソコンに登録した上で実際に1週間使用し，使用後に「動作面」「心理面」についてそれぞれ分析を行うことで八重歯キャラの新規性について検討を行う。動作面での問題点では使用の際に気づいた利点，欠点についてとりまとめ，心理面については使用時に発生した感情の機微について数値的に解析を行うものとする。
3. 結果・考察
図-3が実際に使用したマウスポインタである。
図-3: マウスポインタ
(1) 動作面
大きな利点として，常日頃から見慣れており，正の感情も負の感情も湧かなかったマウスポインタに対して，月坂紗由の八重歯という付加価値を足すことにより，マウスポインタに関して愛情を感じるようになった，というものがあげられる。しかしこの利点は各個人のキャラの嗜好によるところが大きいため，他のキャラでも検討を行っていく必要があると考えられる。一方欠点として，ポインタの判定がわかりづらい，使用開始5分後には元のポインタに戻したくなる，などがあげられる。
以上のことから，動作面では新規性と呼ぶことのできるほどの可能性は見つけることができなかった。
(2) 心理面
心理面に関しては既往の研究3)を参考にし，八重歯による萌えエネルギー増大(IOMEY)を用いた数値的解析を行う。なお，通常のマウスポインタについては八重歯ではないため，萌えエネルギー(mE)は0と定義する。
図-4がマウスポインタにおけるIOMEYの結果である。図より，変更前と変更後を比べると萌えエネルギーが増加していることがわかる。マウスポインタはパソコンを使用している以上必ず目にすることから，マウスポインタを変更することは心理的に非常で有用であるといえる。
図-4: マウスポインタの八重歯による萌エネルギー増大(IOMEY)
4. まとめ
本研究で得られた知見を以下に示す。
- マウスポインタを八重歯に変更したところ，動作面では大きな変化は見られなかった。その一方で，IOMEYによる数値解析を行ったところ，萌えエネルギーの著しい増加が確認された。これらのことから，マウスポインタの八重歯への変更は心理的な面で非常に有用であると推測される。
- 萌えエネルギーの増加は各個人のキャラの嗜好による部分が大きいため，別のキャラでも検討を行う必要があると推測される。
謝辞
本研究は，日本萌学会萌え萌え研究費補助金の一環として実施しました。また，本研究を行うにあたって，様々なアニメから多大なるアニメキャプチャを引用させていただきました。ここに記して謝辞といたします。
参考文献
- はやかわ: 八重歯カチカチバトルトーナメントを開催したい, 国道864号線沿い, https://kewiihai.hatenablog.com/entry/2020/05/31/130221, 2020年5月31日更新 (閲覧日: 2020年7月17日)
- はやかわ: 紗由さんの八重歯に錯視を見る, 国道864号線沿い, https://kewiihai.hatenablog.com/entry/2019/12/01/024513, 2019年12月1日更新 (閲覧日: 2020年7月17日)
- かふぇ: 八重歯による萌えエネルギー増大を利用した発電, note, https://note.com/cafecafe_/n/ne0e4a5810c81, 2020年7月2日更新 (閲覧日: 2020年7月17日)
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という論文を書いたんですが，誰か査読してくれませんか？
