恐らくおびただしい程の手垢がついている話題でしょうし、今更感はありますが、語りたくなったものはしょうがない。
今回は石浜真史さんのお話をします。
アニメに多少なりとも精通している人なら名前くらい聞いたことがあるのではないでしょうか?
近年では「PERSONA5 the Animation」の監督を手掛けるなど長年多くの作品に携わってきたベテランのアニメーション演出家ですが、やはり何といっても特筆すべきはOP・EDの演出力の高さでしょう。
個人的な考えなんですが、特殊な構成でない限り毎回のように流れるOP・EDは、「アニメの顔」と言っても過言ではないと思うんですよ。
特にOPはその傾向が強くて、本編より先に先陣を切って流れるたった90秒の短い映像で視聴者の心を掴まなければいけない訳ですから、OPの出来はアニメの成功に直結すると僕は考えていて。
何をもって成功とするか失敗とするかという線引きについては人によってそれぞれでしょうが、良いOP・EDは良いアニメである為の十分条件だという点は多くの方に賛同して頂けるのではないでしょうか?少なくとも僕はそう考えています。
その点で言うと石浜さんが作るOP・EDは素晴らしいの一言に尽きるんですね。たった90秒の映像の中で、できる限りスタイリッシュに、印象に残りやすく、かつアニメの世界観に合わせた演出をこれでもか、という程に魅せてくるのです。
このアニメの世界観に合わせる、というのは簡単なようで難しいと素人ながらに思っていまして、創作活動をしている人なら誰しもわかると思うんですけど、自分の得意ジャンルと言いますか、このテリトリーなら戦えるってものは戦っていく内に1つは見つかるんですよね。でも、多くの人は1つだけなんです。
そして、多くの人はその1つに縋って生き続けていくのです。時たまちょっと欲を出して別のテイストを混ぜて戦ってみてもしっくりは来ず、結局は元のテイストに戻してしまう。それを「自分のスタイル」と呼んでみるものの、本質を突けばそれはただの引きこもり。多くの人はそこで自分の凡を嘆くことになるのです。勿論僕もその凡百の1人ですが。
話が逸れました。元に戻しましょう。ヲタクの自己否定なんて聞いててもしょうがない。
つまるところ石浜さんはそこでいくつものファイトスタイルを持っている人だということなのです。自分の色を出しながらも、あくまで元の雰囲気を壊さない。その絶妙なバランス感覚は、多くの経験に基づいた誰にも真似のできないオンリーワンのもので、だからこそ石浜さんの作るOP・EDは多くの人の心を惹きつけて離さないのでしょう。
さて、石浜さん自身の凄さについてほんの少しばかりではありますが語らさせて頂きましたが、僕なんかが語るよりもまずは作品を見て頂いたほうが理解が深まると思うので、ここからは石浜さん制作のOP・EDの中でも特に好きな3つについてただただ語らさせて頂きます。(OP・EDとは書きましたが、オールOPです。悪しからず)
つまるところ、いつものここすき発表会です。お待たせしました。
たった3選なので(選ぶほうは大変に苦労しましたが)、見たことないものがあったヲタクにはこれを期に見て頂きたいですし、全部見たことがあったならば引用RTやコメントでもなんでもいいので、是非あなたの「ここすき」を発表して頂けたらと思います。
みんなで広げよう、石浜の輪。
「かみちゅ!」OP
石浜さんが手がけたOP・EDの中でも初期にあたる作品ですね。2005年の作品とは思えないハイセンスなカットの応酬にやられてしまったヲタクも多いのではないでしょうか?僕はやられました。
古さを感じさせない理由の一つにクレジットの演出方法があげられます。説明するよりもまずは見てもらったほうが早いので、上の動画を再生して頂くか、またはこの下に貼る画像を見てみてください。
おわかりでしょうか?
クレジットを単なる文字として出さず、風景の中に溶け込ませる手法がこのOPの中では幾度となく用いられています。今では普通に用いられている手法ですが、確立させたのは間違いなくこの作品でしょう。
(例えば、2001年の「R.O.D」などが先駆けである、など諸説は勿論あります。しかし、前述した「R.O.D」などは幕間のように人物のカットを挟み込み、その人物にクレジットを落とし込む、という手法を用いており、あくまで風景に溶け込ませるという手法とは似て非なるものと私自身は考えております故に、この作品を"はしり"とさせて頂いております。ちなみに、この「R.O.D」というアニメのキャラクターデザインが石浜さんなのは何かの運命なのでしょうか)
ちょっとクレジットに関しての個人的なお話を挟まさせて頂きます。
皆さんはクレジット必要派ですか?それとも不要派でしょうか?
私みたいな製作陣や制作会社*1、声優*2でアニメを見ているような人種には必要かもしれませんが、恐らく、一般的には不必要だという声が多いのではないでしょうか?
それは、クレジットはOP・EDに於いてはあくまで添え物だからでしょう。
近年でもBDの特典でノンクレジットOPが収録されるなど、言ってしまえば入れなければいけないから入ってるだけで、映像としては不必要なものであったはずなのです。
しかし、2005年。革命が起こりました。
これまでのクレジットに対する扱いを逆手に取った演出方法。それが、クレジットを背景に溶け込ませるという手法だったのです。
不必要であったもののはずを必要なものに生まれ変わらせる。それが石浜マジック一の巻なのです。
さて、続けて中身を見ていきましょう。
溶け込ませるためのフォントの作りこみも素晴らしい。
ここで違和感なくメッセージも入れていく手法凄くないですか?
このキャラに文字を書かせてクレジットを出すという手法天才的だと思うんですがどうでしょう。
今回は紹介できませんが、AチャンネルのOPでも同じ手法が用いられていましたね。(書かせているというのを見せる為にワイプを使うという手法にも痺れますね)
主人公よりもモブの子の牛乳を目立つところに映し出し、なおかつクレジットを入れているのに違和感がないの凄くないですか?バランス感覚の鬼。
これは別口なのですが、空気感に合わせる為にフォントとかもこだわっているので、変更できないロゴマークなどはどうしても浮いてしまいますね。こういう所からもいかに他の部分でクレジットの不純物感が拭き取られているのかが伺い知れて面白いですね。
どうでしょうか?「かみちゅ!」のOP。流石にキャラデザなどは少しばかり昔っぽさを感じ取ってしまいますが、演出方法は今日のアニメに引けを取らない出来ではないでしょうか?
今日のアニメに繋がるOPの金字塔の一つがこの作品だと私は思っています。
余談。
クレジットの魔術師石浜さん。実は真逆の方法でクレジット問題を解決したこともありまして。
有名なので知っている人もいるかと思われますが、石浜さんは「BLEACH」のOPを2回ほど手掛けています。そのうちのシドがOPテーマを歌っている方のお話なのですが、これがまた凄い。
90秒の前半にクレジットをできるだけ詰め込んで、後半にクレジットをほぼほぼ流さないことで疑似的にノンクレOPを創り出しているのです。
なんとその長さは40秒。約半分程をノンクレでお送りしているんですね。
この40秒間の映像、オシャレなんてものではきかないので見たことがない人は一度見てみてはいかがでしょうか?
「N・H・Kにようこそ!」OP
30代のヲタクに「一番センスあるOPと言えば?」と聞けば恐らくダントツでこれが1位になるでしょう。それ程までに有名で、革命的な作品。それが、「N・H・Kにようこそ!」のOPなのです。
このOPの良さを語るにはまずは曲のお話からしないといけないと思うんですよ。だからとりあえず聞いたことのない人は上のリンクから一度聞いてみてください。
聞きましたか?
そうです。
そうなんです。
オシャレで軽快なイントロでまずは「あっ」と思ったでしょう。そして淡い期待を抱きつつ、今か今かと歌いだしを待ったでしょう。
そして当然かのように私たちの耳元へと届けられる、囁くかのような歌声。この瞬間ヲタクは全てを察します。
渋谷系だ!!!!!(ヲタクはみんな渋谷系が大好き、そうでしょ?)
おめでとうございます。渋谷系です。嬉しいね。
厳密に言えばアキシブ系なのかもしれませんが、この曲に於いては定義付けがなかなか難しいと個人的には思っておりまして、それ故今回は「渋谷系」で統一させて頂きます。
渋谷系、みんな好きですよね。ちょびっツの「Let me be with you」から始まり、近年で言えばまちカドまぞくの「町かどタンジェント」など、とにかく名曲の宝庫なイメージがあります。(アニメのOP・ED曲ではないですがひなビタ♪の「neko*neko」も名曲ですね)
シャミ子が悪いんじゃなくて、作詞作曲編曲を一人で担当した辻林美穂さんが悪い。名曲。
ライブでこの曲を歌う日高里菜さん、可愛すぎる。これは日高里菜さんが悪い。(ダンス、可愛すぎませんか?)
聴いているだけでちょっと自分のセンスが良くなったような気さえしてしまう、そんな魅力を内包しているのが渋谷系ですが、ただ、アニメのOP・EDに於いてはそれは諸刃の剣になると個人的には思っています。
アニメというのは、映像と音の二人三脚により紡がれる作品なのです。基本的に、そのパワーバランスは同等でなくてはならないと思います。どちらかを上げる、または下げることで違和感を産み出し、作品に奥行きを出すような手法もあるにはあるけれども、基本的には同等だと思います。過ぎた違和感は、作品にとってはただの毒にしかならないので。
そうなると、渋谷系というのは劇薬なんですよ、アニメにとっては。なんてったって、魅力の絶対値が大きいのですから。生半可な映像では違和感にしかならないのです。
さて、以上のことを踏まえてもう一度OPを見てみましょう。どうでしょうか?
成立していますね。流石の一言です。渋谷系の持つパワーという高いハードルをいとも簡単に飛び越えています。
しかし、どうでしょう。先ほどの「かみちゅ!」と見比べてみてください。クレジットが溶け込んでいませんね。つまり、先程の手法とは全く違う手法でハイセンスを作り上げているのです。
流石の手数の多さとバランス感覚ですね。やはり石浜さんは凄い。そう思わせるには充分な作品。それが「N・H・Kにようこそ」のOPなのです。
それでは、中身を詳しく見ていきましょう。
これは本当に個人的な意見なのですが、作品のテーマがこのOPに全て詰まってると思うんですよ。
この作品を簡単に説明すると、人間としての何かしらが抜け落ちたひきこもりの目の前に、これまた何かしらが抜け落ちた女の子(かわいい)が現れ、ひきこもりから脱却させようとする作品なんですけど、歌詞も、映像も、これでもかとその2人を描いているのです。
まず歌詞から見てもらいましょう。OPで使用されている部分だけ抜粋。
~~~~~~~~~~~
少し見上げた空 出来過ぎた日常
背を向ける度に 呟くだけ
どこに行けばいいの? そんな顔してる君と
路地裏の陰 時計の針が
止まった時間を 塗り替えて
差し伸べた両手 噛み合わないパズルを
置き去りにしてた 二人出会うまで
失くしてた何か 最後のかけらを
取り戻して
~~~~~~~~~~
どうでしょうか?描かれていませんでしょうか?
「パズル」や「時計の針」など、ボカしてはいるものの確実に二人の関係性について歌っている歌ではないでしょうか。「どこに行けばいいの?」という顔をした君は、主人公の佐藤を指していて、「差し伸べた両手」の持ち主(?)はヒロインの岬ちゃんでしょう。
そして、どこに行けばいいかわからない、時計の針が止まった、噛み合わないパズル、失くしてた何か、など2人の現在の状況をこれでもかとぼやかしつつも説明しています。
たったこれだけの文字数で、ボカしながらも、こんなにも分かりやすく2人について語っている、とてもセンスのある歌詞ですね。
次に映像について見てみましょう。
明るい色で書かれたクレジットと眩しい光が差し込む「明」のシーン。
その一方で暗い色で書かれたクレジットと光のほぼない「暗」のシーン。
しかし、その部屋には一筋の光が差し込んでいます。
そしてその後一瞬映りこむヒロインの岬ちゃん。一筋の光は恐らく岬ちゃんを暗示しているものだと思われます。
この一瞬で、歌詞通りの2人の関係性を示しています。
しかし、真に特筆すべきところは2枚目の画像でしょう。
クレジットの影をOPの映像の中に描き込んでいるのです。
普通の感性であれば、OP・EDに出てくるクレジットというものは、先程の「かみちゅ!」のように溶け込ませない限り、アニメの世界とは別物のもののはずなのです。
しかしこの作品では、影を落としこむことによって、何の変哲もないクレジットを実世界に登場させていることを示唆しているのです。
いままで不要だと思われていたものを有用なものへと変換してきた石浜さんは、遂に不要なものをそのままの形でアニメに「登場」させるという手法を取ってきました。これは一般的に考えれば暴挙と言えるでしょう。
しかし、岬ちゃんのカットの次のシーンで、更にその暴挙は凄みを増すのです。
見てください。相も変わらずクレジットは影を落としこんでいますね。その一方でどうでしょう。後ろを歩く人間を見てください。
影が一切描かれていませんね。
そもそも石浜さんの人間の描き方、つまるところキャラデザは、シンプルな線、かつ影のないという点が特徴なので、影が描かれていないというのはおかしな話ではないのですが、それならクレジットにも影を描く必要はないでしょう。
それでは何故クレジットには影を描き込むのでしょうか?
実はこれも、「引きこもり」である主人公を暗示した演出であると思うんです。
こちらをご覧ください。
同じように人には影が描かれていませんが、その人の配置を見てください。クレジットを挟んで2人が会話をしていますね。まるで、クレジットが存在していないかのように。
影を落としこんでいるクレジットの方が明らかに実在しているはずなのに、その実在のものが見えていないかのように歩く、影さえない人間らしきもの。この場合、異質なものはどちらでしょうか。
僕は人間の方だと思います。
しかも、実在しているクレジットというのは、実在する、アニメ業界で働いている、普通の人たちの名前が書いてあるわけですよ。そこに混じる異質な人間。
つまり、爪弾きもの、普通には生きていない、生きていけない人が歩いている。それが、このワンカットに込められている。(と、僕は思っています。)
考え過ぎでしょうか。
時計視点の映像というオシャレ要素。文字が反転していることからこのクレジットも確実にこの世界に存在していますね。
でもその世界に住むはずのヒロインである岬ちゃんは気にしていない様子。見えていないのでしょうか。それとも、見ないようにしているのでしょうか。
そして、パジャマ姿の岬ちゃんがカメラに近づき、パジャマの柄がそのまま背景に。登場するOPの曲名。オシャレ演出が続きます。
"人"でないものが、岬ちゃんのパジャマだった背景を破壊します。岬ちゃんの一部が欠けていきます。
絶望した様子の佐藤。突然身体が爆ぜ、画面が血に飲み込まれていきます。
佐藤の意識の中へ。穴ぼこだらけの背景の中、影に飲み込まれるかのような佐藤。
影がありますね。
結局のところ、佐藤だって意識レベルまで行けば生きている人間だということがこのカットから伺い知れます。それが表層まで出てこないから、実世界で生きづらさを感じている訳で。
傘を持って登場する岬ちゃん。傘と言えば雨から身体を守る、つまり「守る」という意味合いを持つアイテムです。物語の内容を考えれば岬ちゃんが傘を持つというのは当然の事でしょう。佐藤を救いに来たのですから。
でも、その傘を見ると穴があいてますね。守るつもりの岬ちゃんの傘にも、佐藤と同じような穴が開いているのです。
結局のところ、2人は似た者同士であるということがこのカットから分かりますね。
そして欠けたピースを持つ岬ちゃん。物珍しそうな顔をしていることからも、そのピースは岬ちゃんにとって知らないもの。見たことのないものなのではないでしょうか。
……
ちょっと長くなりましたが、どうでしょうか。本当は1カット1カットごとに紹介したいのですが、これ以上語ると長くなりすぎるので(語りたい作品はもう1つあるので)、映像の中身についてはこれ位にしておきましょう。
しかし、今回あげたカットを見るだけでも2人の関係性が見えてこないでしょうか?僅か90秒の作品に対しこの情報量。ハイセンスなだけではなく、作品のテーマというか、メッセージ性の詰まった素晴らしい作品だと思います。
本当に石浜作品の中でもトップレベルにセンス溢れる作品だと思いますので、皆さんも1度だけでなく、何度も何度も見返してほしいと思います。(もちろん本編も見てね)
山本裕介×石浜真史のコンビほんとすき。(この次に紹介する作品も山本×石浜コンビです。)
一応余談。
N・H・Kにようこそ!は2クール作品なのですが、1クール目のEDを歌っているのが筋肉少女帯さんなんですね。
名曲。
今でこそボーカルの大槻ケンヂさんは「さよなら絶望先生」で幾度となくOPとEDを担当するなど、アニソン歌手のイメージもありますが、当時のアニメと若干ミスマッチな歌手がOP・EDを担当しているのが、アニメの黎明期という感じがして個人的に好きなんですよね。(有名なので言えば、「るろうに剣心」のJUDY AND MARYさんなどでしょうか)
名曲。
個人的に特に好きなのが、焼きたて!!ジャぱんのEDを一時期SOUL'd OUTさんが担当していたことですかね。どういうマッチングなんですかね、アレ。
名曲。
そんな、SOUL'd OUTさんですが、残念ながら2014年に解散をしてしまいましたが、各メンバーそれぞれの道で精力的に活動しており、特にDJ担当のDiggy-MO'さんは近年では大人気コンテンツ「ヒプノシスマイク」に楽曲を提供するなどマルチな才能を発揮しています。
名曲。
こちらにあげさせて頂きました楽曲、全て名曲でございますので聴いたことのない曲がありましたら是非聞いてみてはいかがでしょうか?
(個人的には筋肉少女帯さんは「イワンのばか」、SOUL'd OUTさんは「ウェカピポ」が好きなのですが、リンクを貼りすぎるのも取っ散らかってよくないので紹介までに留めさせて頂きます。)
余談、ただのダイレクトマーケティングでございました。おわり。
「ヤマノススメ セカンドシーズン」OP
その後も「Aチャンネル」OP、「進撃の巨人」OP(1期2クール目)など様々な名作を世に送り出してきた石浜さん。
そして「N・H・Kにようこそ!」から9年後の2014年、歴史的な出来事が起こりました。
待ちわびました、あの怪作を産み出したコンビを。今度は私たちにどんな世界を見せてくれるのでしょうか?まずはご覧ください。
もう流石の一言ですね。
原作のヤマノススメの空気感に合わせた「かわいい」を前面に押し出すため、デフォルメの効かせた画を多用しながらも、それでもいつものようにハイセンスにまとめる。
先程紹介した「N・H・Kにようこそ!」とは違い、いわゆる日常系に近い作品なのでOPに作品のテーマを載せる、といった構成ではないのですが、その彼女たちの日常を爽やかにそしてカッコよく描いているこのOP。個人的には石浜作品の集大成だとも思っております。
9年たっても色褪せないセンス。本当に素晴らしいの一言ですね。
ではその素晴らしさを1つずつ紐解いていきたい所なのですが、この作品に関しては語るところが多すぎるため、1点だけに絞って語らさせて頂きたいと思います。
それは「音ハメと声ハメによる場面転換」です。
この作品、1度見て頂いた方ならわかると思うのですが、場面転換が非常に目まぐるしいです。主人公たちが制服で歩いているカットがあるかと思えばすぐ山登りの道具のカットに切り替わり、果てはサビでは浴衣カットにまで切り替わります。凄い。
目まぐるしく変わっていくカットというのは、とっ散らってしまい視聴者がどこに目を向けていいのか分からなくなる恐れがあるので、アニメの顔であるOPで用いるのは中々に難しいお話ではあるのですが、この作品は場面転換を上手く用いることでその欠点を上手く補完しています。
その隠し方について、自分が分かる限りではありますが説明させて頂こうと思います。
この作品では1つだけある例外を除き、主に3つの手法で場面転換を行っています。
まず1つ目。これは非常にわかりやすいですが、「鐘の音」です。楽器の音として非常に目立つ鐘の音に合わせて、キャラが鐘を叩くカットを一瞬入れることで場面転換を行うのです。
こんな感じですね。話は変わりますがこのキャラデザ、線がほぼ0なのにキャラが分かるって凄いですね。
楽曲を聞いていれば分かるのですが、結構鐘の音自体は何回も入っています。ただ鐘の音転換はこの2回のみ。分かりやすい転換機であるだけに、普通ならこの転換を多用してしまいそうですが、そこは流石の石浜さん。場面転換を何度も行うようなOPだからこそ、飽食気味にならないように様々な手法を用いているのでしょう。
次に2つ目。これも割とわかりやすいですが、「感嘆詞」です。「ねえ」や「そう」や「わお」などの感嘆詞に合わせてキャラにその言葉を喋らせて場面転換を行うのです。
かわいい〜〜〜
この「感嘆詞」の手法もオーソドックスな手法ではあるのですが、ひとつ流石だな、と思う場所がありますのでそれを紹介させてください。
ここですね。「わお」の文字を流して場面転換を行っている所です。これは今までに有りそうでなかった手法のように思えます。
それは勿論、手法としてはあまりにも強引すぎるからという理由があるので当たり前と言えばそうなのですが。
しかし、この作品ではひと手間加えることで強引さを割り引いているのです。そのひと手間は直前のカットに加えられています。
主人公のあおいが曲を聴くカットをまず映します。
(ちなみにここが唯一例外の場面転換です。長めのカットを入れることで場面転換を促しているのは分かりますが、音や声にハメて転換している訳では無いので、今回は例外として取り扱わさせて頂いています。)
その後、あおいが使っているのであろうスマホが映り、音楽プレーヤーの再生画面が開かれます。OPの曲紹介。*3
ここで、音楽プレーヤーの再生画面に移るというのがミソです。これにより、画面に歌詞を流すことの違和感を減らすのです。
その上、直前の歌詞から文字を流すことで「歌詞を流すんだぞ」という意識付けをさせることも怠りません。
以上の細かい心配りがあって初めて、「わお」の文字による転換が上手くいくのです。凄い考えられてますね。
どういう考え方をすればこういう場面転換が思いつくんでしょうか。素晴らしいの一言です。
3つ目。これは少し難しい。「強めに歌う箇所」での転換です。
この3箇所で行われていますので見てみてください。
「感嘆詞」は短く、強く発する言葉なので転換にはバッチリなのですが、ここの転換は、一続きの歌詞の中で強めて歌う箇所を擬似的な「感嘆詞」として用いることで行っているのですね。
OPを転換させるには、変わったな、と思えるほどの音が同時に必要になってくるのですが、その音をセンテンスの中から探し出して持ってくるというやり方。そこにまで目を付けられるセンスの高さにはただただ脱帽するばかりです。
この手法を用いることによって本来は存在しないはずの転換ポイントを生み出すことで、このような目まぐるしく、しかし見づらくはならない程度に転換していく作品を作り出すことが出来ているのです。
ヤマノススメは現在サードシーズンまで放映されていますが、2期と3期は15分枠、1期に至っては5分枠と非常に店舗の良いアニメとなっております。サッと見られる名作ですので是非まだ見てない方はご覧いただきたいと思います。
さて、ここまで石浜さんの作る作品を3つばかりではございますが紹介させて頂きました。どうでしょうか?少しばかりでもOPの演出について興味も持って頂けたら嬉しいです。
本当は梅津泰臣さんだったり、大沼心さんだったりと語りたい演出家の方はいらっしゃるのですが、それはまた次回ということで。
年末年始、空いた時間でアニメを見るヲタクは多いと思いますが、どうせならこういう所にも着目しつつアニメを見てみるのも良いんじゃないかな?なんて思います。
それでは、今回はこの辺りで。